SDGsビジネス|ベトナム×環境分野(大気汚染)
環境分野におけるSDGsビジネスの構築を検討されている方に向けて、ベトナムの環境分野における課題と求められている技術・サービスなどを紹介します。
デロイトトーマツが2017年に行った試算によると、同分野に関連するSDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」には、338兆円の市場規模が潜在しているとのことで、具体的にはエコリフォーム、災害予測、バリアフリー改修、食品宅配などを想定しているようです。
国際協力機関(JICA)は、日本企業の海外進出促進と途上国の社会課題解決を目的に、SDGsビジネスを支援しています。ただ、活用事例を見ると、途上国でのビジネスに取り組む企業は様々な問題に直面しているようです(参考:JICA 「中小企業・SDGsビジネス支援事業」とは)。
SDGsビジネスに取り組む際に、対象となる社会課題をどのように把握するかが需要です。その点については別記事で解説していますので、よろしければそちらもご参考にしてみてください(参考:SDGsビジネスに取り組む企業の皆様へ)。
1. ベトナムの大気汚染
1-1. 現状
都市部や工業地域での大気環境の悪化、農村部でも手工芸品生産活動や収穫後の野焼きによる大気汚染が深刻化しています。
2019年12月のデータでは、ハノイはダッカ(バングラデシュ)とサラエボ(ボスニアヘルツェゴビナ)を越えて世界最悪の大気汚染都市となりました。筆者はこの記事を執筆中はダッカへ出張中で、ホテルの窓から見える大気の状態はとてもひどい状況ですが、これより汚染レベルが高い都市が世界中にあることに驚きました。
リアルタイム大気汚染指数(AQI)は100を超えると人間にとって「不健康である」とされていますが、ハノイについては下記の測定結果が示す通り、深刻な状況です。
2020年以降はコロナで人の移動が制限されたことによって、汚染レベルは改善されたものの、未だ世界で最も上位をキープしている。
1-2. 主な要因
ベトナムでは近年の人口の急速な増加、経済成長と低価格オートバイの普及によって、ホーチミン、ハノイ等の大都市ではほとんどの世帯でオートバイを保有するようになりました。2018年の販売台数は338万台に達し、2017年と比べると3.5%も増加。さらに登記台数は5000万台を超えています。
その結果、都市部を中心に道路交通量の急増と渋滞の発生につながり、大気汚染といった問題が生じています。
移動発生源として、都市部を中心とした二輪車や自動車の排気ガスによるもの、固定発生源として工場、建設工事現場等の産業活動によるものがありますが、昨今では、移動発生源が大気汚染物質排出総量の約7割を占めるとされています(MONRE、2010 年版ベトナム環境白書(SOE))。
2. 現地政府の政策
2-1. 担当省庁
同国における環境分野、とりわけ大気汚染問題に関わる省庁は、天然資源環境省、建設省、交通省などが対象です。
2-2. 関連規制
ベトナムでは、環境分野を総合的に扱うための法律として「環境保護法」が1994年に初めて制定されています(1993年に議会承認)。それに伴い、大気、水、土壌などの各分野における環境基準や排出基準が制定されました。
これまで何度か改正が行われており、2015年の改正において大気環境管理に関する規制が追加されました。直近では2020年に改正環境保護法が成立し、2022年から施行される予定です。
JICAは「大気質管理制度構築支援プロジェクト」を2013~2015年に実施し、環境保護法を始めとする法制度の改正とその適切な執行のための体制整備を支援しました。
財務省は各省庁に各産業での大気汚染物質排出量に応じた料金徴収計画検討を指示しているようですが、係るモニタリングシステムやDBが未整備で、計画ができても実行が困難な状況です。
地方自治体の取り組みとして、ハノイ市政府は2017年7月に、2030年までに自動二輪車の走行を全面的に禁止することを決めています。
ベトナムに投資する外国企業には、環境保護計画や環境評価書の提出が求められています。
3. 既存の取組
大気汚染の問題を解決するため、既に官民で様々な取組が実施されています。
3-1. 公的機関
グエン・スアン・フック首相は、2021年1月に、大気汚染対策の強化に関する指示を公布しました。これに基づき、フック首相は、各省庁や地方自治体に対し、2020年までの空気質の管理、2025年までのビジョンに関する首相の指導と国家行動計画に従って、空気質の管理を集中的に強化するよう求めました。
ホーチミン市では、同市内の700万台近い二輪車を対象に、今年(2021年)から試験的に排気ガス規制を始める自動二輪車の排気規制プロジェクトを実施しています。これは、ホーチミン市交通局、ベトナム自動二輪車工業会(VAMM)と交通科学技術院が共同で行った、大気汚染に関する総合評価をもとに立案されたものです。
3-2. 民間
日本の環境省がベトナム国天然資源環境省と共催で、2019年1月にハノイで開催した「日本・ベトナム環境ウィーク」において、ビジネスマッチングの機会が設けられ、日本企業の大気環境技術について紹介されました。
JICAの支援事業を活用した事例として、ある日本企業は、ハノイなど都市部においてダイオキシン類を安価かつ簡易に測定する技術の導入を試みています。
住友商事は、他数社と組成したコンソーシアムによって、ハノイ市北部ドン・アイン区でスマートシティ開発の事業化が進められています。そこでは、ハノイ市が抱える幾つかの社会課題に対し日本企業の記述・サービスでの解決を目指しており、「空気や水質などの環境衛生」がその一つに含まれています。
4. 求められている技術
上記の通り、都市部と農村部の両方で、様々な大気汚染要因が特定されていますが、やはり二輪車の排気ガスが大部分を占めており、それに対する重点的な取組が必要です。
そもそも、十分な対策をとるために必要となるモニタリングデータが絶対的に欠如しており、 データベース構築や管理、公表が喫緊の課題となっています。
係る状況から、以下のような新しい技術や取組が求められています(JICA民間企業の製品・技術の活用が期待される開発途上国の課題)。
・料金徴収の基盤となる大気汚染物質の排出量モニタリングシステムや排出量データベース
・車両交通から公共交通へのモーダルシフト
・石炭火力発電に代替する再生可能エネルギー
SDGsビジネスの創出をめざし、特定の国・セクターにおけるポテンシャル(社会課題・ニーズ)について調査頂くとともに、海外での事業を進めるうえではいくつか事前の準備が必要となります。特に、初めて海外事業に挑戦される企業の方はこちらも参考にしてみてください(企業が海外進出をするために必要な事前準備)。