保健医療

SDGsビジネス|ベトナム✕医療分野(プライマリ・ヘルスケアの質向上)

SDGs達成において重要な分野であります「医療」について、ベトナムでの社会課題と、求められている技術を紹介します。

医療機器メーカーなど、医療分野での海外展開を担当されている企業の方は、是非参考にしてみてください。

デロイトトーマツが2017年に行った試算によると、同分野に関連するSDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」には、123兆円の市場規模が潜在しているとのことです。具体的には、医療機器、ワクチン開発、避妊用具、健康診断、フィットネスサービス等の製品・サービスを想定しているようです。

昨今、多くの企業がSDGsビジネスに取り組まれていますが、国際協力機関(JICA)が支援する民間連携事業の一部では、「現地のニーズが当初の想定どおりには存在しなかった」を理由に、事業継続を断念されている実態があります(参考:JICA 「中小企業・SDGsビジネス支援事業」とは)。

SDGsビジネスに取り組むにあたっては、現地のニーズ、つまり対象となる社会課題をしっかり把握することが重要となります。

どのように社会課題を把握すべきかについては、別記事で解説していますので、よろしければそちらもご参考にしてみてください(参考:SDGsビジネスに取り組む企業の皆様へ)。

1.社会課題

ベトナムの保険医療サービスは、これまでの開発援助の功績もあり、下表が示すとおり各種保健指数は改善しています。

 
2000年
2018年
医療支出GDP比
4.8 %
5.9%
一人当たり医療支出(米ドル)
18.9
152.0
平均寿命
73.0
75.3
乳幼児死亡率(出生1,000対)
23.4
16.3

出典)WHO、UNICEF、世界銀行のデータを基に著者が作成

しかしながら依然として、医療人材の不足や都市と地方の格差、高い医療費自己負担率などが課題となっています。

課題①中央医療機関の混雑緩和

国立病院や州レベルなどの上位レベルの病院の患者混雑が酷く、概ね120%を超えるベッド占拠率となっています。

ベトナムでは、疾患状態に応じて適切な医療機関へと病院間で患者を紹介・搬送する、レファラルシステムが導入されています。

出典)経済産業省「医療国際展開カントリーレポート」2020年

しかし、近年では、富裕層を中心にレファラルシステムを無視し、本来であれば、まずはプライマリケアを担うコミューンのヘルスステーション(CHS)を受診すべきところ、最初から中央医療機関を受診する患者が多い状況です

理由としては、より良い設備や医療人材を求めてのことですが、そもそも、コミューンのCHSがどの程度の医療レベルかが周知されていないのも要因の一つです。

経済成長に伴うライフスタイルの変化(運動不足、アルコール摂取、不適切な食生活、喫煙増大等)によって、感染症から非感染症へと疾病構造が変化してきており、全死亡における非感染性疾患の割合が高まっています。非感染性疾患の増加に伴い、高度医療の需要も高まってきた結果、トップリファラルである第三次医療機関には、高度医療機材や高度な医療技術を有する人材が配置されつつあります。

課題②医療人材の確保

医療従事者の数は増加しているものの不足しており、人口比では日本の半分に満たない状況です。

下図が示す通り、医師は1万人あたり8人、看護師は1万人当たり14人で、アジアパシフィックの水準*(医師 14人、看護師 30人)と比較すると、特に看護師不足は深刻です。

*アジアパシフィックには、オーストラリア、バングラデシュ、中国、香港、インド、インドネシア、日本、マレーシア、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、タイ、ベトナムを含む。数値は2017年のもの。

出典)経済産業省「医療国際展開カントリーレポート」2020年

医療人材の不足に加えて、都市部と地方の間での配置バランスも適正ではなく、人口全体に占める都市人口は27%であるにも関わらず、59%の医師が都市に常駐する状態となっています(JICA国別分析ペーパー、2020年)。

世界銀行の情報によりますと、全国62の群で600人の意志が不足しており、更に30%のコミューンでは医師が常駐していないとのこと。 それにより、コミューンのヘルスステーションでは、リスク要因の早期発見や非感染性疾患の予防管理が困難な状況となっています。

医師1名の常駐となると、患者の診療だけでなく、事務作業も行わなくてはならず、その業務量が膨大なことから、医師の負担増加につながっています。

第一次医療は上位レベルの医療機関と比べて、給与面や福利厚生の面で見劣りするため、特に若手人材の確保が困難です。

課題③健康保険の利用率向上

健康保険の利用率が依然低いため、結果として自己負担率が高い状況(4 割強)にあります。

健康保険制度に関しては、国民の公的医療機関への信頼度の低さに加え、診療報酬や保険適用パッケージ、支払い方式の方針が適切に策定されていないこと等から、健康保険の利用率が低く、結果として自己負担率が高い状況にあります。

2.政府の取り組み

医療分野におけるそのような課題に対して、現地ベトナム政府はどう認識し、政策レベルではどのような取り組みを行っているのでしょうか。

2ー1.担当省庁

医療分野における担当省庁は、中央レベルでは保健省(医療サービス局、情報技術局)と、省レベルではの省政府の保健局となります。

2ー2.関連政策

まず、ベトナムには上位政策として社会経済開発10か年戦略(SEDS)が存在し、それを具体化するため、社会経済開発5か年戦略(SEDP)が策定されています。

更に、同戦略とWHOのガイドラインに基づいて、2016 年に保健省が保健セクター開発5か年計画(2016-2020)を策定しています。そこでは、以下の優先課題が掲げられています。

  1. 中央・専門および一部の省病院の混雑解消、検査・治療とリハビリの質の改善
  2. 草の根レベル(コミューン、郡レベル)の医療ネットワークの構築、予防医療や健康増進強化
  3. 母子保健・人口家族計画の促進
  4. 保健人材、科学技術の強化
  5. 医療従事者の行動規範、倫理の改善
  6. 保健財政改革とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)ロードマップの実施
  7. 食品・医薬品・ワクチン・医療機材の安全確保と管理機関の強化
  8. 保健システム改革とマネジメント強化
  9. 病院情報システムの開発

まさに、①、④、⑥が先述の課題と合致しています。

また、⑨については、ベトナム政府が積極的に展開している国家デジタルトランスフォーメーション(DX)計画に沿って、積極的な取組がなされています。2020年9月には、全国1000か所の下位病院と中央レベルの病院30か所をソフトウェアを通じて接続する、オンライン診療システム「テレヘルス(Telehealth)」が完成しました。

2ー3.関連規制

他方、医療分野における各種規制については以下の通りです。

【病院設立】

最低資本金や専門家の配置などの条件はあるものの、民間病院への新規参入は解禁されています。また、外資へも市場開放がされており、外資100%の病院の設立か、ベトナム企業との合弁又は事業協力契約締結による進出が認められています。

【医療機器の輸入】

ベトナム国内で生産された医療機器とは異なり、輸入された医療機器については、Decree No.36/2016/ND-CP及びDecree No. 169/2018/ND-CPに基づき、保健省傘下のDEMC(Department of Medical Equipment and Construction)が管轄しています。

ベトナム国内に事業体を持たない場合は、ベトナム国内での現地代理人を指定する必要があります。輸入に際しては、下記の書類を提出し、製品登録申請を行う必要があります。

  • 申請フォーム
  • 事業登録証明書、または投資証明書のコピー
  • 医療機器に関する書類(クラス分類レター、国際品質認証取得照明、自由販売許可、他)
  • 登録申請費用(クラスにより異なる)

【医療人材】

医師免許は、 4年間の基礎教育と2年間の専門教育、合計6年間の大学教育で取得できます(国家試験制度がない)。医療従事者の人材不足を是正するために、教育・訓練を受けるだけで資格を取得できる制度として導入されていますが、逆に、医療従事者の能力や質は客観的に保証されない状況です。

外国人医師の就労も可能ですが、ベトナム語が堪能であることが条件の一つとなっていることが障害となっています。

このように、国の規制によって課題が生じているということはなく、むしろ国は医療分野において規制緩和を進めており、それにも関わらず、課題の解決に至っていない状態が続いています。

3.既存の取り組み

ベトナムの医療分野における課題は、これまで開発援助を通して取り組まれてきたものの、経済発展や人口ピラミッドの変化により、新たな課題が発生しています。

課題解決のために、官民がどのような取り組みをしているか、以下に紹介します。

3ー1.公的機関

JICAは、これまで施設・機材供与、技術協力による病院管理・技術・研修活動の向上等の支援を行ってきました。今後も、横断的な保健システム強化を目的に保健省・中央レベルの中核医療機関を拠点とし、省レベルの保健医療サービスの改善と人材育成のため支援を実施するとのことです。

JICA以外のドナー機関としては、世界銀行とアジア開発銀行が積極的に支援を行っています。それらは、1・2 次保健医療機関へのインフラ整備を中心としており、上記のJICAの支援方針は、それら2機関との役割分担を図るものです。

3ー2.民間

JICA支援事業

JICAの民間連携事業では、ベトナムの保健医療の分野において、これまで19件が採択されています(同一企業が、同一又は類似した製品・サービスで、異なるJICAスキームで複数採択されていた場合、それらのスキーム(案件)をまとめて一つの事業としてカウント)。

そのうち、普及・実証・ビジネス化事業に至っている案件、且つ、今回紹介した課題に直接関連する事業としては、全19件のうち5件でした。

ある事業では、中央病院の過負荷是正、医療サービスの地域格差の是正、画像診断に関わる医療従事者の質的改善を目的として、ICT活用による遠隔医療診断システムの整備・運用の実証が行われました。

また別の事業では、ある地域の病院、診療所、ヘルスセンター等の各医療機関の医療情報システムを、相互接続し、患者の医療情報の閲覧に加えて、上位医療機関への紹介状、電子カルテ連携、掲示板等のサービスについて実証が行われました。

その他

JICAの民間連携事業とは別に、ある企業はベトナムでスマートクリニックを運営されています。現在は、一般内科診療や診察・治療を伴う医療メニューを提供していますが、今後は、日本にいる日本人医師によるオンラインの医療相談サービスを開始されるとのことです。

4.求められている技術

先述の課題に対するソリューションとしては、下位レベルの医療機関で提供される医療サービスの質向上が不可欠と考えます。更に、それをより多くの国民に周知することができれば、レファラルシステムが適切に機能し、健康保険の加入率も向上されるのではないでしょうか。

その為には以下のような項目に関連する技術が求められていると言えます。

・ICT活用による医療サービスの向上や医療安全の確保

・医療従事者の業務負担(事務作業)の軽減・効率化

・医療物品、薬剤在庫管理や機材管理(メンテナンス)システム

・健康増進や疾病予防のための遠隔診療システム

・コミューンCHSでの診療に関する情報発信ツール

単純に医療人材や病院を増やすことは容易ではなく、また適切なアプローチでもないかもしれません。

例えば、ベトナムでは新しく建設された病院が経営破綻に陥るケースが少なくありません。公立病院とは異なり、民間病院は国からの補助金などに依存せずに病院経営を行わなければなりません。

また、民間病院では国の医療保険が適用されないため、患者は治療費を全額負担しなければなりません。所得水準が依然低いベトナムで必要されているのは、一般市民にも利用可能な公立病院であり、その部分についてはやはり引き続き開発援助によるアプローチが必要です。

SDGsビジネスの創出をめざし、特定の国・セクターにおけるポテンシャル(社会課題・ニーズ)について調査頂くとともに、海外での事業を進めるうえではいくつか事前の準備が必要となります。特に、初めて海外事業に挑戦される企業の方はこちらも参考にしてみてください(企業が海外進出をするために必要な事前準備)。

投稿者

naginishi@gmail.com
開発コンサルタントとして、途上国の産業開発分野の案件に従事。前職での海外ビジネス経験を活かして、SDGsビジネスの創出に取り組む。