産業人材育成x人手不足解消|特定技能制度|ベトナム
日本企業の皆様が、SDGsビジネスに取り組むなかで抱える課題は様々かと思いますが、JICA支援事業を活用した企業に対するアンケート調査によると、その一つに「海外進出の為の人材の確保が難しい」という点が挙げられます。(参考:JICA 「中小企業・SDGsビジネス支援事業」とは)
他方、途上国では、若年層の失業やワーキング・プアが社会課題としてよく取り上げられます。そこで今回は、日本国内の人材不足の問題に加えて、開発途上国の人材育成についてベトナムを例に現状をお伝えします。
更に、その開発途上国の人材育成に寄与すべく導入された、日本の「外国人技能実習制度」と、2019年に新設された「特定技能」資格について紹介します。
【関連するSDGs目標】
同制度を利用し、外国人を受け入れることはSDGsのゴール8の達成に繋がりますし、更には、今後海外でのSDGsビジネス創出をめざす企業におかれても、必要な人材獲得ができるという側面もあるかと思います。
開発途上国の産業発展の為には、人材の育成が欠かせません。日本で習得した技能によって、自国の産業振興と技術革新に貢献してもらいたいと思います。
目次
1.現状
1ー1.国内の人手不足
日本国内では、人口減少に伴い、生産年齢人口が減少していることにより、人手不足がより深刻になっています。
就業者数全体でみると2013年以降、7年連続で増加していますが(2020年は新型コロナウイルスの影響で低下)、下図が示す通り、雇用主の企業規模でみると、より規模の大きい企業に集中しているようです。従業者規模30人未満の事業所の雇用者数は減少傾向で推移している一方、従業者規模100人以上の事業所の雇用者数は増加傾向で推移しています。
次に、中小企業の人手不足感を業種別に見てみましょう。
下図は業種毎の従業員数過不足 DI *を示しており、2013 年第4四半期に全ての業種でマイナスとなり、その後は人手不足感が強まる傾向で推移しています。2020 年に入ると、新型コロナウイルスの影響により全業種でこの傾向は一転するものの、第2四半期には急速に不足感が弱まり、足元では、いずれの業種でも再び従業員数過不足 DI はマイナスで推移しています。
注)従業員数過不足数DIとは、従業員の今期の状況について、「過剰」と答えた企業の割合(%)から、「不足」と答えた企業の割合(%)を引いたもの。(中小企業庁、2021年「中小企業白書」)
1ー2.ベトナムの人材育成
ベトナムでは下図が示す通り、農業セクターから工業セクターへ就業人口がシフトしており、産業人材の育成が急務となっています。
出典:世界銀行のデータをもとに著者作成
5年おきに設定される社会経済開発計画では、工業セクターのGDP比率向上が目標とされており、経済成長率、FDI流入額はともに堅調に推移しているものの、部品などの現地調達比率が低いことが課題です。経済全体の98%を占める中小企業、特に裾野産業に関わる企業の育成が必要といえます。
国際協力機構(JICA)の情報によると、豊富な労働力がFDI誘致の強みの一つですが、十分に訓練された労働者は30%に留まっているとのことです。同国内には1,498(2018年時点)の職訓機関があるものの、指導員の経験・技能不足、資機材購入の予算不足が課題となっており、更には産業界の人材ニーズが反映できていないのが実態です。
また、同国の労働人口全体の37.2%を占める農業セクターでは、課題として、作物の安全性確保、品質向上、高付加価値化があげられ、その実現ためには、農業人材の育成が不可欠な状況といえます。
ベトナムのように国内人材育成という社会課題を抱える開発途上国に対して、日本は技能実習制度を設けて、技能移転を通した国際協力を行ってきました。
更に、日本国内での人手不足にも対応すべく、特定技能制度を2019年に新設しました。
2.制度
2ー1.制度の概要
それぞれの制度の概要について、2つを比較しながら説明します。
最も大きな違いとしてまず、それらは受け入れ目的が異なります。技能実習制度は、技術移転等を通じた開発途上国に対する国際協力を目的としたものである一方、特定技能制度は、中小・小規模事業者等の人手不足解消の為に、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れることを意図しています。
目的が異なることから、対象業種や人材に求められる技能レベルなども異なります。主な違いは下表のとおりです。
技能実習 | 特定技能 |
|
---|---|---|
受入れ可能 業種 | 1号:原則制限なし 2号:85職種・156作業 3号:77職種・138作業 (令和3年3月16日時点) | 1号:①介護 ②ビルクリーニング ③素形材産業 ④産業機械製造業 ⑤電気・電子情報関連産業 ⑥建設※ ⑦造船・舶用工業※ ⑧自動車整備 ⑨航空 ⑩宿泊 ⑪農業 ⑫漁業 ⑬飲食料品製造業 ⑭外食業 ※建設及び造船・舶用工業の2分野のみ2号特定技能へ移行可能です。 |
在留期間 | 1号:1年以内 2号:2年以内 3号:2年以内(合計で最長5年) | 1号:通算5年 2号:制限なし |
行政手続 | ・法務大臣による在留資格審査 ・外国人技能実習機構の技能実習計画の認可、実習実施状況の届出 | ・法務大臣による在留資格審査 ・地方出入国在留管理局への就労 状況・支援状況の届け出 |
技能水準 | なし | 1号:相当程度の知識又は経験を必要 2号:熟練した技能水準 |
監理・支援機関(日本側) | 監理団体による監査その他の監理事業を行う。 | 委託機関が住居 の確保その他の支援を行う。 |
送出機関 | 外国政府の推薦又は認定を受けた団体 | なし |
入国時の試験 | なし(介護職種のみ入国時N4レベルの日本語能力要件あり) | 技能水準・日本語能力水準を試験等で実施(技能実習2号を良好に修了した者は試験等免除l) |
法令 | ・外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律 ・出入国管理及び難民認定法 | ・出入国管理及び難民認定法 |
活動内容 | 1号:技能実習計画に基づいて講習を受け、技能などにかかる業務に従事する活動 2号・3号:技能実習計画に基づいて技能等を要する業務に従事する活動 (非専門的、非技術的分野) | 1号:相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する活動 (専門的、技術的分野) |
転職 | 原則不可 | 同一の業務区分内又は試験によりその技能水準の共通性が確認されている業務区分間において可能 |
出典:法務省の情報を基に著者が作成
2ー2.利用状況
技能実習制度と、後に導入された特定技能制度ですが、それらはどれくらい利用されているのでしょうか。
下図の、在留資格別の外国人労働者数推移(令和2年10月末時点)をみると、外国人労働者数は全体として、2013年頃から急増しています。その内、在留資格で最も多いのが、「身分に基づく在留資格」で永住者や日系人などがそれに該当します。
技能実習(黄色)は2015年頃から急増しており、2020年には40万人を超えています。技能実習生を職種別でみると、建設関係、食品製造関係、機械・金属関係が多いようです(法務省「外国人技能実習制度について」2021年4月)。
他方、特定技能は、上図では「専門的・技術的分野の在留資格」に含まれます。特定技能のみを表すグラフは下図のとおりですが、特定技能も2019年の導入後から堅調に増加していることが読み取れます。
産業別にみますと、飲食料品製造が37%と最も多く、その次が農業で、その2つの産業で全体の約半数以上を占めています。
特定技能を産業別で見る際には、どのルートで特定技能を取得しているかも確認しておきたいところです。下図がそれを示すデータですが、例えば、特定技能で最も多かった「飲食料品製造」や「農業」は、そのほとんどが技能実習を経ていることがわかります。また、特定技能の導入により労働力確保が期待される「介護」では、その多くが試験を受けての取得となっている。
これで、技能実習および特定技能について、全体および産業別のトレンドが把握頂けたかと思います。
2ー3.制度により生じる問題
それらの制度導入によって、多くの外国人が日本の労働市場を支え、また自国の産業発展に寄与している反面、様々な問題が生じているのも現実です。特に、技能実習制度については、以下のような問題があります。
1)悪質な送り出し機関
ベトナムを含めた幾つかの国とは、二国間協定を締結しており、技能実習生の受け入れには現地の送り出し機関を通すことが条件となっています。
現地の送り出し機関としては、なるべく早く人材を日本へ送り、現地での待機期間を短くしたいことから、日本側の監理団体に対して、賄賂や現地で接待を行うことで、採用を依頼するケースが横行しています。
本来であれば、そのような支援機関は非営利であるべきですが、ベトナムでは、送り出し機関による手数料の徴収を認めていて、上限が設けられているものの遵守する業者はほとんどいないようです。
また、日本の監理団体に対する接待費用は、実習生が支払う手続き費用に上乗せされる仕組みになっていて、その金額はベトナム人にとって高額で支払いが困難なため、結果として、実習生は多額の借金を抱えた状態で、来日することとなっています。
2)劣悪な労働環境
技能実習制度は、開発途上国への技能移転を目的としていますが、受け入れる日本企業のなかには単に安い労働力の確保を目的としている企業があり、実習生が劣悪な環境で労働を強いられているケースが少なくありません。
厚生労働省が公表するデータでは、労働基準関係法令違反が認められた実習実施者は、監督指導を実施した9,455事業場(実習実施者)のうち6,796事業場(71.9%)も存在するとのことで、下図が示す通り、過去5年においてその割合は一向に改善されていません。
主な違反事項は、多い順に、①労働時間(21.5%)、②使用する機械に対して講ずべき措置などの安全基準(20.9%)、③割増賃金の支払(16.3%)とのことで、重大・悪質な労働基準関係法令違反によって送検されたものが34件あったとのことです。
実習生が経済的に困窮すると、金銭目的の犯罪につながる可能性もありますし、日本に対する印象は間違いなく悪くなるでしょう。国際協力を目的とした制度にもかかわらず、これは大変残念なことです。
3)帰国後の技能移転
技能実習は、自国への技能移転を目的としていますが、技能実習生が帰国後に、日本で就労した産業につき、習得した技能を活かすとは必ずしも限らないのが実情のようです。
JICAがベトナムの元技能実習生に対して実施したアンケート調査では*、日本での実習分野と現在の業務と関連性があると回答したのは28%のみでした。同種の職種への就業をするケースは機械・金属加工や建設の場合には比較的多くなっているものの、農業や食品製造の場合だと、帰国後に同種の職種に就業するのは、いずれも3%にとどまっています。
注:JICA(2019)技能実習の帰国研修生を対象とした日越交流の強化に関するデータ収集調査
技能実習生の中には、技能習得ではなく、お金を稼ぐことを目的に来日を希望するものが少なからずいて、その場合、受入れ企業を探す際、仕事内容よりも給与面を重視してしまうことも、原因の一つと考えられます。
このように、2つの制度が本来意図していることとは異なる実態が存在しています。
当局もそれらを認識しており、改善の為に制度改定や運用方法の工夫を検討しています。
本来は、開発途上国の人材育成や中小企業の人手不足解消という、重大な社会課題に対応するものであり、受け入れ企業にはこれらの課題を認識いただいたうえで、外国人を雇用する場合には、十分な受入れ体制を整えてもらいたいと思います。
3.利用方法
技能実習制度もしくは特定技能制度のどちらを利用すべきか、という問いに対しては、対象産業がどちらの制度にも当てはまる場合は、夫々の制度の目的に従い、人手不足の解消のためであれば「特定技能」をご検討頂ければと思います。
技能実習であれば、その後に特定技能へ移行すると仮定して最長10年間の雇用が可能で、特定技能だけの場合を比べて、就労期間は長くなりますが、それでも10年です。特定技能は、受け入れ人数の制限がないという点と、外部コストも比較的低く抑えられることなどの優位性があります。
以下では、特定技能によって外国人雇用を検討されるうえで必要な情報をお伝えします。
3ー1.受入れまでの流れ
海外から来日する外国人もしくは既に国内に在留している外国人を雇用するかでは、試験(技能・学科)の要不要が変わってきますが、大まかには、求人⇒雇用契約の締結⇒在留資格の認定/変更⇒就労開始、の流れです。
特定技能者を雇用するにあたっては、1号特定技能支援計画を作成する必要があり、登録支援機関に委託することが可能です。
3ー2.求人
求人の段階では、適した人材を獲得することと、特定技能者の最適な人材育成・キャリア形成のために、各種マッチング・イベントやサービスをご利用いただければと思います。
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3ー3.支援機関への相談
受け入れた特定技能者の生活支援は受け入れ企業の義務となっています。特に、同制度によって初めて外国人の雇用を検討されている企業にとってはは、受入れ手続きや生活支援など、ご不明な点が多いかと思います。そもそも、対象の14業種に当てはまるかどうかを確認することも必要です。
既に技能実習生を受け入れられている企業におかれましても、今後特定技能への切り替えを検討しているのであれば、その方法を確認しなければなりません。
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