SDGsビジネス|バングラデシュ ✕ 環境分野(大気汚染)
環境分野におけるSDGsビジネスの構築を検討されている方に向けて、バングラデシュの環境分野における課題と求められている技術・サービスについて紹介します。
デロイトトーマツが2017年に行った試算によると同分野に関連するSDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」には、338兆円の市場規模が潜在しているとのことです。具体的には、エコリフォーム、災害予測、バリアフリー改修、食品宅配などを想定しているようです。
国際協力機関(JICA)は、日本企業の海外進出促進と途上国の社会課題解決を目的に、SDGsビジネスを支援しています。ただ、活用事例を見ると、途上国でのビジネスに取り組む企業は様々な問題に直面しているようです(参考:JICA 「中小企業・SDGsビジネス支援事業」とは)。
SDGsビジネスに取り組む際に、対象となる社会課題をどのように把握するかが重要です。その点については別記事で解説していますので、よろしければそちらもご参考にしてみてください(参考:SDGsビジネスに取り組む企業の皆様へ)。
目次
1. バングラデシュの大気汚染
1-1. 現状
EPI環境パフォーマンス指数によると、バングラデシュの大気環境は、2020年に世界180か国中179位にランクされています。
また、世界3,000都市以上のPM2.5汚染分析の結果を示す大気汚染度指数(AQI)では、バングラデシュは77.1µg/㎥であり、2019年の83.3µg/㎥より減少傾向にあるものの、依然として高い数値が報告され世界で最も汚染された国にランクされています。
また、都市別ではその首都ダッカが2番目に汚染された都市になりました。
1-2. 主な要因
バングラデシュにおける大気汚染の主要因は、レンガ工場、排気ガス、産業、建設現場等とされています。
左の図が示す通り、PM2.5の発生源を見ると、レンガ焼窯、地方の砂ぼこり、車輛の排気ガスで全体の85%を占めています。(引用:Begum, B.A. et al (2014) “Identification and Apportionment of Sources from Air Particulate Matter at Urban Environments in Bangladesh”)
特にレンガ産業については、資源が乏しく入手が困難な石材の代わりに、同国では建設資材としてレンガを利用する機会が多く、経済発展に伴う建設需要の拡大に伴いレンガ需要も拡大しています。特にレンガ産業が稼働する乾期(10月~3月頃)では大気汚染度指数(AQI)が特に高い数値を記録しています。
巨大な三角州のうえに立地していることから、バングラデシュの陸地の大部分が堆積物によるもので、砂などが空気中に舞い上がりやすく、計画性に乏しい住宅開発やインフラ開発がそれを助長している状況です。3番目の要因については、過去10年でダッカの車両台数が急増していることから明らかです。
他方、バングラデシュ国内での発生のみならず、国外からの流入による汚染も原因として考えられます。同国の環境NGO、Environment and Social Development Organization (ESDO)の調査によると、「インドの炭鉱で発生する汚染物質は越境し、バングラデシュの大気汚染全体の40%を引き起こしている。」とのことです。
1-3. 健康被害
大気汚染による呼吸器系疾患の増加、飛行機等の交通機関の運行への影響等も顕著となっており、今後、更なる工業化の進行に伴い、被害が拡大することが予想されます。
AQIの報告書(2020)によると、バングラデシュ人の死因の13~22%が大気汚染による健康被害とのことです。
2.現地政府の政策
2-1. 担当省庁
同国における環境分野、とりわけ大気汚染問題に関わる省庁は、以下の通りです。
・環境森林気候変動省(Ministry of Environment, Forest, and Climate Change)
・住宅公共事業省(Ministry of Housing & Public Works)
・地方自治農村開発協同組合省(Local Government Division, Ministry of Local Government, Rural Development and Cooperatives)
・その他、自治体等
2-2. 環境規制
大気環境保全に係る規制としては、1997年にBangladesh Environment Conservation Rulesが制定され、大気環境や汚染の基準を示しています。その他、大気汚染の主な要因の一つであるレンガ産業に対する規制として、1989年にBrick Burning Act(製造に薪炭の使用を禁止)が制定されたのち数回改正が行われ、環境汚染の少ない技術への移行が促されている一方、直近では2019年のBrick Manufacturing and Brick Kiln Establishment (Control) Actによって、工場設置に関する規制が緩和されています。
大気汚染の規制官庁である環境森林気候変動省は、規制等の方針を示す努力をしているものの、産業の拡大の勢いに対抗する十分な対策を打ち出すことができていません。同省は2025年までに焼成レンガの全面禁止を打ち出す等の方針を示し、違法操業者の取り締まりを開始しています。
また、同省職員が定期的に産業エリアを訪れ、廃液処理プラント(Effluent Treatment Plant (ETP))の整備状況を確認しています。
3. 既存の取組
大気汚染問題に対して官民で様々な取組が実施されています。
3-1. バングラデシュ政府
環境森林気候変動省が2018年に策定したNational Action Plan for Reducing Short-Lived Climate Pollutantsでは、2040年までに実行すべき優先戦略について規定されています。排出源ごとに対策が記載されており、例えばレンガ産業については、環境配慮型の生産方式への転換を促進すべく、国内7地域で試験的に環境配慮型のレンガ焼窯の導入が進められています(GIZの技術支援および世銀の資金協力による)。
3-2. その他公的機関
世銀(World Bank)やアジア開発銀行など、主要ドナー機関による大気環境改善に係るプロジェクトは現状特に無いようです。
同様にJICAによる支援(技術協力/資金協力)も特に見当たりません。
3-3. 民間
上記1-2によると、大気汚染の最大要因であるレンガ産業への対策が最も効果的と考えられます。JICAの支援事業を活用した事例で、無焼成レンガの技術の導入を試みた案件がこれまで2件ほどあるようです。
日本以外の外資企業でも近年、環境配慮型のレンガ生産方式をもって参入している事例も見られます。
3-4. 研究機関
スタンフォード大学(米国)とバングラデシュに本拠を置く国際的な医療研究機関であるInternational Centre for Diarrheal Disease Research, Bangladesh (icddr,b)が、AIとサテライト映像を用いたモニタリングシステムによって、汚染度の高いレンガ焼成炉を上空から特定することに成功しています。インフォーマル企業が存在することから、レンガ焼成炉の数が正確に把握できていない状況下において、当該技術は対策を検討するうえで非常に重要な役割を果たすと考えられます。
4. 求められている技術
JICAは当該社会課題に対する「活用が想定される製品・技術・ノウハウ」として、以下を挙げています。
- 排ガス処理、
- 大気モニタリング、
- PM2.5等の対策、他
- 同上の分析機器のIoT化、情報集約、分析処理の向上に資するIT技術
大気汚染の要因は様々あるなか、上記1-2でレンガ焼成炉がその大部分を占めていることが判明しており、それに対する対策が最も効果的と考えられます。
昨年春のコロナ発生直後は、建築需要の低迷が続きましたが、今年に入り回復の兆しが見えています。政府による後押しもあり、今後は同産業でも環境配慮した取組が求められ、レンガ需要の回復に伴って今後は新しい技術を導入する企業が外資を中心に増えてくることが予想されます。
SDGsビジネスについて特定の国・セクターにおけるポテンシャル(社会課題・ニーズ)を調査するとともに、海外での事業を進めるうえでいくつか事前の準備が必要となります。特に、初めて海外事業に挑戦される企業の方はこちらも参考にしてみてください(企業が海外進出をするために必要な事前準備)。