SDGsビジネス|ベトナム×防災・災害対策
防災分野におけるSDGsビジネスの構築を検討されている方に向けて、ベトナムにおける課題と求められている技術・サービスについて紹介します。
防災分野に関連するSDGs目標は以下の2つです。
「住み続けられる街づくりを」を達成するには、地域によって発生しうる様々な災害に対して、被害を抑えるべく災害に対するレジリエンス(強靭性)を高める必要があります。
近年世界各国で発生し、その被害は更に深刻化している背景には気候変動があります。「気候変動に具体的な対策を」は、防災・災害対策そのものを示していると言えます。
デロイトトーマツが2017年に行った試算によると、SDGs目標11には338兆円、また目標13についても334兆円と巨額の市場規模が潜在しているとのことです。
国際協力機関(JICA)は、日本企業の海外進出促進と途上国の社会課題解決を目的に、SDGsビジネスを支援しています。ただ、活用事例を見ると、途上国でのビジネスに取り組む企業は様々な問題に直面しているようです(参考:JICA 「中小企業・SDGsビジネス支援事業」とは)。
SDGsビジネスに取り組む際に、対象となる社会課題をどのように把握するかが重要です。その点については別記事で解説していますので、よろしければそちらもご参考にしてみてください(参考:SDGsビジネスに取り組む企業の皆様へ)。
1.自然災害
1-1.現状
国連防災機関(UNDRR)によると、ベトナムは世界中でも、自然災害による影響が最も深刻な国の一つとのことです。
ベトナムの主な自然災害は、洪水、台風などによる暴風雨、土砂災害、海岸侵食等があげられます。その他、塩害、渇水、地盤沈下等による被害が経済の発展とともに深刻化しており、地球温暖化によるさらなる悪化も懸念されます。
農業農村開発省(MARD)の統計資料(2007-2017)によれば、災害による死傷者・不明者数の77%は洪水と暴風雨が原因によるもので、続いて土砂災害が10%となっています。また、災害被害額では91%が洪水・暴風雨です。
災害被害額とGDP成長には相関関係がみられ、経済成長とともに災害被害額は増加しています。2016年時点では、災害被害額がGDPの約1%にまで達しています。災害種別にみると、洪水及び暴風雨が毎年の被害のほとんどを占めています。
労働人口の半数近くが従事する農業セクターでは、自然災害による経済的損失を受けやすく、2016年は大型台風に加えて、大規模な干ばつも全国で発生した結果、被害額が甚大になりました。
1-2.地域
下記のとおり、地域・場所によって様々な災害が発生します。
- 洪水:全土(特に中部地域)
- 土砂災害:山岳部地域(特に北部地域)
- 干ばつ:全土(発生年によって地域が異なる)
1-3.主な課題
JICAが2018年に完了した調査によると、防災分野における課題として、以下のようなことが考えられます。
防災活動や災害対応における防災関連情報の活用
防災情報が複数の異なる機関によって管理されていることと、緊急時に迅速かつ的確に現場の状況を把握するための情報共有のための基盤施設がない状況です。
防災設備の未整備
洪水対策として、ダムや河川堤防の老朽化が改善されていないことや、多くの灌漑ダムでは、洪水放流や流量調整を行うための施設が機能していないことが挙げられます。
現況の水資源ポテンシャルを超過する水利用
干ばつに関連する課題として、ベトナムを流れる国際河川の水資源ポテンシャルが上流隣国での水利用に依存していることや、中長期気象予報の精度が低く、適正な作付け・収穫や、適切な貯水池運用が行えていません。また、地盤沈下の影響の定量的な把握がなされておらず、地下水の過剰揚水も関連しています。
2.現地政府の政策
2ー1.担当省庁
ベトナムの防災分野に関わる省庁としては、中央災害対策委員会、農業農村開発省(MARD)防災総局、更には、天然資源環境省(MONRE)気象水文総局が所管しています。
ベトナムおける国家防災最高指揮機関である、中央災害対策委員会(Central Steering Committee for Natural Disaster Prevention and Control:CSCNDPC)は、各中央省庁代表より構成されています。
2ー2.法制度
防災法(Law on Natural Disaster Prevention and Control)が、2013 年 6 月に承認され、2014 年 5 月より施行されています。また、政府議定(Decree)No.66/2014により「防災法実施細則」が定められ、具体的な実施体制が記されています。
2ー3.関連政策
ベトナム政府が、SDGs達成のために独自に策定した、National Action Plan for the Implementation of the 2030 Sustainable Development Agendaでは、防災分野については以下4つの関連目標が設定されています。
目標 | 担当省庁 |
|
---|---|---|
Target 1.4 | 2030年までに、貧困層と脆弱層の回復力を向上させると同時に、気候関連の異常気象やその他の経済的、社会的、環境的ショックや災害への曝露と脆弱性を軽減 | MARD |
Target 11.5 | 2030年までに、貧困層や脆弱な人々の保護に十分な注意を払いながら、死者数と影響を受ける人々の数を大幅に減らし、自然災害やその他の災害によって引き起こされるGDPに対する直接的な経済的損失を大幅に削減 | MARD |
Target 13.1 | 気候関連の危険に対する回復力と適応能力、および自然災害やその他の災害に対応する能力を強化 | MONRE |
Target 13.3 | 気候変動の緩和、適応、影響の軽減、早期警告に関する教育、意識の向上、強化、人的および制度的能力の向上 | MONRE |
これまでのベトナム政府による関連の政策としてはまず、1994年に「災害軽減のための第一次国家戦略および行動計画」が策定され、技術的・制度的・社会的な側面から災害対策を実施することの重要性が示されました。
さらに、 第二次戦略的行動計画(2001年~2020年)において、災害軽減と管理における戦略が示され、環境に配慮した持続可能な開発と災害の軽減が最重要課題とされてきました。
3.既存の取組
防災分野では、既に官民で様々な取組が実施されています。
3ー1.公的機関
ベトナム政府としては、堤防の建設、修繕、強化等には、堤防の等級によって、国家予算および地方省予算を割り当てています。また、全国の河川を対象に、洪水管理計画が策定・実施されています。
JICAは水害に関連する災害管理情報システムを用いた緊急のダムの運用及び効果的な洪水管理計画、 気象予測及び洪水早期警報システム運営能力強化プロジェクトなどを実施してきました。また、2018年には防災「セクター戦略策定のための情報収集・確認調査」を通して、6つの防災セクター優先プログラムの策定支援を行いました。
JICA以外のドナー機関としては、世銀が、インフラ設備の復興と今後の災害に備えた政府機関の能力強化に関するプロジェクトを実施しています。
3ー2.民間
日本企業による取組としては、冒頭に紹介したJICAの支援事業を活用した事例がこれまでに計6件あります。のり面・斜面防災に関する技術や、運河・水路などの護岸工事における地盤改良技術の普及に取り組む事例が見られます。
4.求められている技術
上述の課題改善のため、堤防・ダム等のハード施設の運用改善、状態監視や維持管理、気象水文観測をはじめとする災害モニタリング、予警報等、幅広い防災技術に対するニーズがあります。係る状況から、以下のような新しい技術や取組が求められています。(引用:JICA民間企業の製品・技術の活用が期待される開発途上国の課題)
- 気象水文観測機器・システム(安価・簡易に導入・運用可能で、効果的にデータ共有が行えるもの)
- 洪水氾濫・土砂災害の被災状況の把握技術
- 護岸・堤防等の状態監視・維持管理技術
- 土砂災害(Flashflood and Landslide)のモニタリング・ 予警報システム
- 斜面対策工
- 養浜・侵食対策工
日本と、その地形や発生する自然災害に共通する部分が多いベトナムにおいて、日本の民間企業にはこれまで多くの災害経験の中で培ってきた、先進的な防災技術・ノウハウを是非活かして頂ければと思います。
SDGsビジネスの創出をめざし、特定の国・セクターにおけるポテンシャル(社会課題・ニーズ)について調査頂くとともに、海外での事業を進めるうえではいくつか事前の準備が必要となります。特に、初めて海外事業に挑戦される企業の方はこちらも参考にしてみてください(企業が海外進出をするために必要な事前準備)。