SDGsビジネス|ベトナム✕廃棄物(海洋プラスチック)
当ブログでは、SDGsビジネスに取り組まれている企業の皆様に向けて、海外の社会課題に関する情報を発信しています。
今回は、ベトナムの廃棄物に関して、海洋プラスチックごみの問題を取り上げたいと思います。
SDGs目標12.「つくる責任 つかう責任」
ごみとして捨てられると自然に分解されることはほぼなく、回収や処理が難しいプラスチックごみは、製造および消費段階での取り組みが重要です。
SDGs目標14.「海の豊かさを守ろう」
海洋資源の保護に関する内容が定められており、廃プラスチックの流入による海洋汚染の問題への取り組みは、同目標の達成に不可欠です。
1.現状
1.1 概要
- ベトナムは、近年の急速な経済発展と、人口増加によって、廃棄物の排出量が増加している。
- ベトナム国内では、年間3.6百万tの廃プラスチックが排出されている。その内、70%が埋め立てによって処理されているが、環境基準は十分に満たされていない(UNDP, 2019)。
- また、残りについては、焼却もしくは海洋含む自然環境へ流出しており、結果としてベトナムでは、年間73万tの廃プラスチックが海洋へ流出していると試算されている。これは全世界の海洋プラスチックの6%に相当する量となる(トップ20か国のうち4番目に多い(IUCN*、2019))
- 2017年の中国での廃プラスチックの輸入規制によって、ベトナムへの流入量が増加している。
*IUCN:nternational Union for Conservation of Nature and Natural Resources(国際自然保護連合)
1.2 対象地域
沿岸部:ベトナムは、南北に約3,200㎞の海岸線を有しており、不適切な廃棄物管理が行われている地域では、プラスチックごみの海洋流出を引き起こしている可能性が高い。廃プラスチックの海洋流出は、河川もその経路となることから、内陸地域も例外ではない。
都会より地方が深刻:プラスチックごみを含む一般廃棄物の収集率は、都市部では80~90%であるものの、村落での収集率は40%程度と低い(JICA調査、2020)。村落では、行政によるごみ収集のシステムがなく、一般ごみは各家庭で処理されているが、野焼きや自然への投棄など環境に配慮された方法ではない。
メコンデルタ:毎年、3.7万トン以上のプラスチックごみがメコンデルタ地域から、海洋へ流出している(Freija Mendrik et al, 2019)。全世界の海洋プラスチックの88ー95%が、10の河川から流出しており、メコン川はそのうちの一つ。メコン川委員会は、メコン川流域の4か国の都市を対象に、プラスチックごみによる汚染状況に関して、実態調査を行っている。ベトナムは、メコンデルタ最大の都市であるカントー市が対象都市に選択されている
ダナン:国際連合アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)が、プラスチックごみの環境への影響軽減を目的としたプロジェクトを実施しており、ダナン市がベトナムでのパイロット地域に選定されている。
1.3 要因
ベトナムにおける海洋プラスチックの問題の要因は、プラスチック消費量の急激な増加と、ずさんな廃棄物管理にある。プラスチックごみの海洋流出の経路については未だ明らかになっていないが、係る調査プロジェクトが国際機関などの主導で進めらている。
海洋プラスチックの問題を適切に捉えるためには、マテリアルフローに沿って整理する必要がある。ベトナムにおけるプラスチックのマテリアルフローと、各段階における課題について、記述のデータやWWFの報告書*を基に下図に整理した。
*WWF:World Wide Fund for Nature(世界自然保護基金), “ASSESSMENT OF EXTENDED PRODUCER RESPONSIBILITY (EPR) FOR PLASTIC PACKAGING WASTEIN VIET NAM”, 2021
各段階で課題が確認できるが、ベトナムの天然資源環境省の職員は、海洋プラスチック問題の主要因として、クラフトビレッジでの不適切なリサイクルを指摘している。プラスチック破砕後の洗浄水に混ざって多量のマイクロプラスチックが排出されているとのこと。リサイクルプラスチックは、バージン原料と常に価格競争にあり、そのような環境対策に経費を投じさせるのは困難で、行政も関与できない状況になっている。
2.現地政府の政策
海洋プラスチックの問題については、廃棄物管理を担当する天然資源環境省(MONRE)が管轄省庁となる。ごみの発生エリアによって、下記のとおり部局が配置されている。
・海洋諸島庁(VASI)⇒海上や沿岸部における固形廃棄物を所管
・環境総局(VEA)⇒陸上における固形廃棄物を所管
また本省とは別に、地方では地方自治体天然資源環境局も関わる。
MONREは、2018年にダナンで開催された地球環境ファシリティ総会で、海洋プラスチック削減に係る取組を先導すると宣言した。さらに、2019年に首相が全てのステークホルダーの参加が重要とし、2030年に向けた海洋プラスチックごみ管理国家行動計画を発表した。同計画が示す目標値以下の通り。
項目 | 2025年 | 2030年 |
---|---|---|
海洋プラスチックごみ削減割合 | 50% | 75% |
漁業ごみの回収割合 | 50% | 100% |
使い捨てプラスチックを使用しない沿岸の観光施設等の割合 | 80% | 100% |
全国規模の海岸クリーンアップ活動回数 | 年間2回 | - |
プラスチックごみのない海洋保護地区の割合 | 80% | 100% |
上記目標を達成するため、下表に示す活動が計画されている。上記目標のうち、特に「2025年までに、海洋プラスチックごみを50%削減する」ためには、ベトナム政府や自治体、国際機関だけではなく、民間の協力も不可欠と考える。
計画された行動 | 主要な実施機関 |
|
---|---|---|
1 | プラスチック製品と海洋プラスチック廃棄物の扱いにおける意識・行動の変化 | MONRE、情報コミュニケーション省、メディア、地域人民委員会 |
2 | 沿岸および海洋活動から発生するプラスチック廃棄物の収集、分類、保管、移送、および処理 | 沿岸地域の地域人民委員会、MONRE |
3 | プラスチック廃棄物の発生源でのコントロール | 文化・スポーツ・観光省、運輸省、工業貿易省、農業農村開発省、MONRE |
4 | 海洋プラスチックごみ処理技術に関する国際協力、研究、応用、開発、移転。 | MONRE、外務省 |
5 | 海洋プラスチックごみ管理のメカニズムに関する効果的な調査、レビュー、研究および定式化 | MONRE、農業農村開発省、運輸省 |
2020年11月には、環境保護改正法案が国会で承認され、固形廃棄物管理や廃プラスチックの管理について厳しく定められた。また、ベトナム政府は2020年12月に、世界経済フォーラム(WEF)との間で、プラスチック汚染および海洋プラスチックごみの削減を目指すパートナーシップ(National Plastic Action Partnership (NPAP))を締結している。
3.既存取組
海洋プラスチックの問題に対して、その解決のために既に官民の様々なステークホルダーによって取り組みが成されている。同分野でのSDGsビジネスを検討するうえでは、既存プレーヤーの動向を確認されたい。
3.1 公的機関
下表が示す通り、各国ドナー機関や国際機関によって様々な取組がなされている。
組織名 | 取組(プロジェクト名) | 成果・活動内容 | 時期 |
---|---|---|---|
国連環境計画(UNEP) | Promotion of countermeasures against marine plastic litter in Southeast Asia and India | カンボジア、タイ、ベトナム、ラオス、インドの政府機関及び専門家と協力し、プラスチックごみの排出源・経路の特定やモニタリング手法のモデル構築を行う。日本政府も出資。 | 2019~ |
SEA Circular | プラスチックの製造から廃棄後のリサイクルまでのバリューチェーンを見直して、海洋へのプラスチック流出を防止する | 2019~2023 | |
国連開発計画(UNDP) | Supporting for formulating National Action Plan for Marine Plastic Debris | 海洋プラスチックごみ国家行動計画の策定支援 | |
アジア開発銀行(ADB) | ”Promoting Action on Plastics Pollution from Source to Sea in Asia and the Pacific” | インドネシア、フィリピン、ミャンマー、タイ、ベトナムを対象に、廃プラによる海洋汚染問題に対するアクションプランの策定および実施支援 | 2019~2023 |
ノルウェー開発協力局(NORAD) | Scaling Up a Socialized Model of Domestic Waste and Plastic Management in 5 Cities (DWP5C) | 5つのサイトで家庭ごみとプラスチック管理の統合されたローカルモデルを開発する | |
Ending Plastic Pollution Innovation Challenge (EPPIC) | プラスチック汚染の防止と削減のためのベトナムでの能力開発、およびASEAN諸国でのネットワークと経験の共有が強化される | 2019~2022 | |
Marine Environment Protection of the South-East Asian Seas | 優先度の高い条約(マルポール条約、ロンドン条約・議定書等)を批准・実行するための能力開発 | ~2021 | |
日本政府(環境省) | 日・ASEAN 統合基金 (JAIF)による海洋プラスチックに係るプロジェクト | 国別行動計画策定支援や、廃棄物管理の能力開発、海洋でのモニタリング | ~2021 |
アメリカ合衆国国際開発庁(USAID) | Municipal Waste Recycling Program(MWRP) | インドネシア、フィリピン、スリランカ、ベトナム 都市ごみリサイクルに係る取り組みを行う団体に対して助成金の提供と技術支援を行う | |
ドイツ国際協力公社 (GIZ) | Reducing plastic waste and marine litter in East and South East Asia | プラスチックごみを出さない仕組み作りを目指す | 2019~2022 |
当該問題は、地球規模で発生しており、広域での取り組みが必要なことから、例えばASEANや他のアジア諸国など複数国を対象にした取組が多くみられる。条約批准の促進など政策面での支援が多く、活動内容については重複感もあるが、一部民間技術の導入に対する支援も行われている。
日本政府も参画し、資金供与や技術支援を行っている。JICA も廃棄物管理の分野では協力実績があるが、海洋プラスチックごみの問題に特化したプロジェクトなどは実施されていない。
3.2 民間企業
民間企業も、取組を始めている。日本からの取組はまだ活発ではないものの、現地進出済みの外資企業は、官民連携を図りつつ、自社製品のプラスチック使用料の削減など、独自の取組を進めている。以下に、その一部を紹介する。
1) JICA支援事業を活用した事例
まず、JICAの支援事業を活用した企業の取組でみると(2019年度分まで)、ベトナムの廃棄物管理に関する案件は、計10件あり、そのうちプラスチックごみを含んだごみを対象としたものは2件のみであった(同じ企業・案件が、異なる民間連携のスキームで採択されている場合は1件としてカウントした)。
その2件について、1つは、ごみの再資源化を目指した一般廃棄物の分別・焼却・リサイクル事業である。もう1件は、産業廃棄物を対象としたもので、最終処分能力に限界のあるベトナムにおいて、下工程の負担を軽減を目的とした、分別・選別処理システムに関するものであった。
どちらも案件化調査(製品・技術等を途上国の開発へ活用する可能性を検討することを目的とするもの)で、既に完了しているものの、通常次の段階となる普及・実証事業での採択は現時点では確認できない。
2) 現地進出企業による事例
MONREは2020年2月、ダウ・ケミカルベトナム社、サイアム・セメント(SCG)、ユニリーバ・べトナム社の3社とMoUを取り交わし、プラスチック廃棄物の管理と循環経済の発展に向けて、官民連携パートナーシップを促進させている。
ダウ・ケミカルは廃プラスチックを道路建設の資材に活用することに成功した。現地の大学の協力も得ながら、同社の技術によって、廃プラスチックを工業団地の道路として再利用している。ユニリーバ(Unilever)は、同社製品の包装用プラスチックをリサイクル・プラスチックに替えることを決定した[WWF、2021]。
ベトナムの消費財のリーディングカンパニー9社がパッケージ・リサイクル・オーガニゼーション・ベトナム(PROV)を組織した。同組織を構成するのは、Coca-Cola社、FrieslandCampina社、La Vie社、Nestlé社、NutiFood社、Suntory PepsiCo社、Tetra Pak社、TH Group社、URC社の9社で、取組の一つとして、 2030年までに、メンバー企業が市場に流通させた全てのパッケージを回収し、リサイクルすることを目指す。
4.求められている技術
ベトナムの海洋プラスチックの問題について、マテリアルフローに沿って、課題と求められている技術の例を、下表に纏めた。
マテリアルフロー | 課題 | 求められている技術の例 |
---|---|---|
製品加工・市場投入 | プラスチック製品の生産量・消費量の抑制 | ・製品の小型・軽量化(ペットボトルの軽量化など) ・部品点数の削減による省資源化設計 ・代替素材(バイオプラスチック、生分解性プラスチック、紙など) ・詰め替え製品 ・バージンプラスチックから再生プラスチックへの転換 |
収集・運搬 | 農村部での一般廃棄物収集システムの導入、および都市部でのプラスチックごみの分別 | ・自治体でのプラスチック分別技術 ・家庭内での分別を自動化、簡素化するデジタル技術 ・発泡スチロールの回収・分別・破砕・圧縮 |
処分 | 埋め立て処分場での環境負荷抑制 | ・廃プラスチックの洗浄技術 ・自然環境への流出防止のための技術 ・可燃ごみ混在でも焼却可能な技術 |
リサイクル | リサイクル能力の向上 環境負荷を抑えたリサイクル技術の導入 | マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクル・サーマルリサイクル ・ペットボトルリサイクル(ペット樹脂の製造) ・プラ含む可燃性ごみからエタノール生成(プラ原料) ・建築資材の原料として活用 ・電気炉鉄鋼業での還元剤としての活用 ・セメント工場での焼却、熱・エネルギー転換 |
課題はどれか一つに取り組むのではなく、関連しているものを複合的に組み合わせて捉える必要がある。そうすると導入する技術もそれに伴って、複数を組み合わせることになる。複数のソリューション(技術導入)を実行するにあたっては、同時並行的に進めるか、もしくは、ある課題の解決が、別のソリューション実行上の必要条件になっている場合は、実施上の優先順位を設けなくてはならない。
日本国内でもそうであるが、やはり「分別」が最優先課題である。まず農村部では、ごみ収集のシステム自体を構築しなければならない。都市部では、一般廃棄物全体の回収率は高いものの、プラスチックごみの分別が進んでおらず、発生元(家庭)と回収後の分別の両方が課題である。ペットボトルは単体で選別可能であるが、その他の製品で複合素材や高度なプラスチック加工がされている場合、素材を分離することは難しい。
これまで途上国の廃棄物管理については、JICAを含めたドナー機関が技術協力によって課題解決を試みており、分別に関しては、市民の意識向上(awareness raising)をよく活動内容に挙げているが、ペナルティやインセンティブが無い限り、途上国の市民の意識・行動を変容することは至難の業である。開発援助では解決が困難な課題に対して、日本企業の技術に期待したい。