JICA 「中小企業・SDGsビジネス支援事業」とは
国際協力機構(JICA)は、民間連携事業の一環として、途上国の社会課題解決を目的とした日本企業の海外進出を支援する、中小企業・SDGsビジネス支援事業を実施しています。これは補助金制度ではなく、企業とJICAとの間で締結される業務委託契約に基づくもので、企業の製品・技術導入に係る調査業務を実施し、その報告書が成果品として受領されたのちに、実施費用を精算できるというものです。
毎年決まったタイミングで公募があるので、企業は企画書をもって応募をし、JICAによる選考を通過し、採択されなければなりません。私の所属先もそうですが、外部人材としてコンサルタントが企業の応札支援を行うことが一般的です。
直近としては2020年12月の公示で、計54件が採択されています。その内、中小企業支援型は41件で、これまでの中小企業への支援件数は延べ1,019件にのぼっています。今回は、新型コロナウイルス等感染症への対策や、外国人材の本邦受入と帰国後の活用、また、DX(デジタルトランスフォーメーション)に資する案件も複数採択されたとのことです。JICAのウェブサイトでは、過去の採択案件の検索・閲覧が可能です。
これまで、1,000件以上の事業が採択されていますが、個々の案件について、採択後の進捗はどうなっているのでしょうか。そういった疑問に答えるべく、2021年1月~2月にかけて、その事業を活用した企業に対するアンケート調査が実施され、その結果から以下のようなことが明らかになっています。
- 対象企業のうち、30% (128/438件)がビジネス展開を断念していると回答。(残りの70%も全てが、ビジネスとして収益化できているわけではない)。
- 断念した理由・要因について、下図が示す通り「コスト・価格を現地に適合させることができなかった」が最も多く、全体の52%(67/128件)であった。
- 断念した事業の内、55%(71/128件)の事業が、回避策として「応募前に、現地のある程度の事情・ニーズや 価格競争力の有無を予め把握するべき」を選択した。
断念理由について、「コスト・価格を現地に適合させることができなかった」は、誰にコストを負担させるか、誰を顧客ととらえるかによって、その難易度は変わってきますが、いずれにせよ、日本にある既存の製品・技術をそのまま途上国に提供することができないのは明らかです。また、ただスペックを下げて、機能を最小限にする、といった方法をとってもおそらくは現地のAffordableなレベルまでは下げられないでしょう。
必要なことは、現地の社会課題を適切に捉え、自社の既存製品・設備をどのように供給するかではなく、自社が有する技術・ノウハウをもってどのように解決できるか、を考える必要があるとおもいます(参考:SDGsビジネスに取り組む企業の皆様へ)。
3位の「現地のニーズが当初の想定どおりには存在しなかった」(43%が回答)については、回答企業がどの支援メニューを活用しているかによりますが、基礎調査であれば、むしろそのニーズを確認することが目的ですので、調査の結果、実際にニーズは存在しなかったとの結論に至ることは仕方がないでしょう。ちなみに当ブログでは、SDGsビジネス創出に必要な現地のニーズ、社会課題について情報発信しています(社会課題アーカイブ)。
4位以下は、人材の確保に関する課題(ビジネス計画の立案や海外展開の為の)が指摘されています。
続いて、「現地ビジネス環境(法規制、輸出入・投資手続き等)への対応が困難だった」(35%が回答)については、個人的には比較的克服しやすい障壁であると認識しています。途上国特有の、難しいビジネス環境を理解し、信頼できるパートナーの協力を得さえすればクリアできるはずです。
私はこれまで、JICAの技術協力案件を通して、途上国のビジネス環境改善に関わってきたので、現地での官民とのネットワークや、現地へ進出するうえで必要な手続きについて知見があります。また、日本企業へのインタビューを通して、共通するビジネス環境上の問題についても知る機会が多いので、大体のことは想像がつきます。
途上国でのビジネスを検討するうえでは、是非、そのような現地の状況に知見があるパートナーと協力して進めて頂ければと思います。